
自然で心を潤し、地酒で舌鼓を打つ富士山旅

目次
はじめに
雲上にそびえる富士山は、古来「信仰の山」であると同時に、雪解けの伏流水が里へ注ぐ「恵みの山」でもあります。その湧水は、富士宮の門前町や河口湖畔、朝霧高原の酒蔵で仕込み水として使われています。本記事では、浅間大社の楼門や河口湖の景色をめぐりながら、富士山の水で仕込んだ日本酒を味わう旅をご案内します。
見学できる酒蔵、四つの銘柄、蔵開きの時期、旅のスタイルに合わせた三つのモデルコースを順に紹介します。
富士山でつくる日本酒とは
信仰の山と、その湧水が育む酒
世界文化遺産に登録された富士山は、古来より信仰の対象であり、芸術や文学の源泉として人々を魅了してきました。山麓に点在する浅間神社や白糸の滝などの名勝は、富士山信仰と大自然が織り成す荘厳な景観を今に伝えています。豊かな伏流水と冷涼な気候は、山麓の酒造りも支えてきました。
霊峰への信仰と、清らかな仕込み水の邂逅

富士山本宮浅間大社をはじめとする浅間神社では、噴火を鎮め山霊を祀る信仰が古くから続いています。浅間大社の境内にある湧玉池には富士山の湧水が湧き出し、富士宮市内の蔵元も同じ富士山の伏流水で酒を仕込んでいます。山梨県側では、河口湖畔の井出醸造店(1850年頃に酒造りを開始)が富士山の湧水を仕込み水にしています。
静岡県側の富士錦酒造・富士高砂酒造・牧野酒造・富士正酒造も、富士山の水で酒を仕込んでいます。
雄大な山容と、蔵の白壁が響き合う門前風景

浅間大社の楼門越しに富士山を眺めたり、河口湖畔を歩いたりしたあとに酒蔵を訪ねると、景色と酒造りの両方から富士山麓の土地柄を感じられます。見学の有無・料金・予約方法は蔵ごとに異なるため、後述の各蔵の情報を確認してから訪ねましょう。
軟水仕込みが生む、口当たりのやわらかな地酒

富士山の伏流水は硬度の低い軟水です。一般に軟水仕込みは発酵が穏やかに進み、やわらかな口当たりの酒になりやすいとされます。井出醸造店の純米吟醸「甲斐の開運」は爽やかな酸が感じられ、富士高砂酒造の山廃純米辛口はまろやかさと辛口のキレをあわせ持ちます。
静岡県オリジナル酒米〈誉富士〉と静岡酵母を使う「富士錦 特別純米酒 誉富士」は香りが豊かでやわらかな味わい。朝霧高原で醸す富士正酒造の酒も、すっきりとした飲み口です。
【 富士山エリア 概要情報 】
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 山梨県富士河口湖町・富士吉田市/静岡県富士宮市・御殿場市 ほか |
| アクセス | 東海道新幹線 新富士駅→路線バスで富士宮へ/JR身延線 富士宮駅(富士高砂酒造まで徒歩約15分)/富士急行線 河口湖駅(井出醸造店まで徒歩約10分) |
| 主な観光地 | 富士山本宮浅間大社、白糸の滝、富士五湖、富士スバルライン五合目、朝霧高原 |
| 日本酒スポット | 富士宮市の酒蔵(富士高砂・富士錦・牧野・富士正)、井出醸造店(河口湖) |
| イベント情報 | 2月「井出醸造店 蔵開き」/3月中旬「富士錦酒造 蔵開き」(2026年は3月15日)/1月「富士高砂酒造 新春蔵開き」/8月「富士高砂酒造 夏の蔵開き」※日程は年ごとに各蔵の公式サイトで確認 |
富士山周辺の「おすすめ酒蔵」
富士山の水で仕込む蔵を訪ねる
富士宮市街、河口湖畔、朝霧高原に、見学や試飲ができる酒蔵があります。ここでは富士山観光と組み合わせやすい 酒蔵3軒 を紹介します。
1. 井出醸造店|富士五湖唯一の「甲斐の開運」蔵
富士山北麓・河口湖の南岸に位置し、江戸中期(1700年頃)に始めた醤油醸造を前身に、1850年頃から清酒造りを行っています。標高約1,150m付近で汲み上げられる富士山湧水(富士河口湖町の水道水)を仕込み水に、看板銘柄〈甲斐の開運〉を醸しています。
蔵見学は 1 日 2 回(9:30/15:00、実施日は公式カレンダーで確認)・所要約 60 分・高校生以上 2,200 円(試飲付き、2026年4月改定)。酒蔵と蒸留所をめぐった後、日本酒3種・梅酒・ウイスキーの計5種をテイスティング(試飲は20歳以上)。英語での案内にも対応しています。店内(蔵売り場「酒望子」)では有料試飲(5コイン935円、2026年9月時点)もできます。河口湖駅から徒歩約 10 分です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 株式会社 井出醸造店 |
| 創業年 | 1850 年頃(清酒醸造開始) |
| 主な銘柄 | 甲斐の開運(純米吟醸・大吟醸 ほか) |
| 見学 | 〇(要予約・有料) |
| 試飲 | 〇(見学時5種/店内の有料試飲) |
| 直売所 | あり(酒望子) |
| アクセス | 富士急行線 河口湖駅 徒歩約 10 分 |
2. 富士高砂酒造|浅間大社門前で守る「山廃仕込」の老舗
天保元年(1830)創業。富士山本宮浅間大社のすぐ西側という門前立地で、富士山伏流水(超軟水)を仕込みに使用。能登杜氏が伝統の 山廃仕込 を守り、酵母の天然培養にもこだわっています。
蔵見学は無料・要予約で、所要約 45 分(10:30〜15:30の間で相談、2026年9月時点)。「富士山下山仏」や酒造工程、酒蔵道具類の展示を見学したあと、無料で試飲ができます。浅間大社参拝とあわせて訪ねやすい蔵です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 富士高砂酒造 株式会社 |
| 創業年 | 1830 年(天保元年) |
| 主な銘柄 | 高砂 山廃純米辛口/高砂 大吟醸 |
| 見学 | 〇(要予約・無料) |
| 試飲 | 〇(蔵ショップにて) |
| 直売所 | あり(販売店) |
| アクセス | JR 富士宮駅 徒歩 15 分 |
3. 富士正酒造|朝霧高原で楽しむ“見て・味わう”酒蔵
慶応 2 年(1866)創業。2011 年に朝霧高原(標高 900 m)のあさぎりフードパーク内へ本社を移転し、蔵には見学者通路を設けています。仕込み水にはすべて富士山の湧水を使用しています。
蔵見学ツアーは無料・要予約(希望日の1週間前まで、所要約30分)。見学後は売店で試飲ができ、常時20種類ほどの酒の中からタンク直汲みの限定酒やリキュールも味わえます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 富士正酒造 株式会社 |
| 創業年 | 1866 年(慶応 2 年) |
| 主な銘柄 | 富士正(朝霧蔵出 純米大吟醸・辛口本醸造 ほか) |
| 見学 | 〇(要予約・無料) |
| 試飲 | 〇(有料/無料) |
| 直売所 | あり(限定酒・リキュールなど) |
| アクセス | 車利用が便利(路線バスを利用する場合は運行状況を事前に確認) |
富士山周辺の「日本酒おすすめセレクション」
富士山の伏流水で仕込む地酒を、蔵ごとに一本ずつ選びました。
ここでは 富士山観光とあわせて味わいたい銘柄を4本 取り上げ、味わい・飲み方・料理との相性をまとめました。
1. 甲斐の開運(かいのかいうん)純米吟醸|井出醸造店
富士五湖唯一の造り酒屋が、富士山の湧水で仕込む看板酒。穏やかな吟醸香と澄んだ甘み、きれいな酸が特長で、冷酒ではみずみずしく、ぬる燗では米の旨みがふくらみます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 種別 | 純米吟醸 |
| 味わい | 穏やかな香り、爽やかな酸、軽快な後味 |
| 飲み方 | 冷酒◎/ぬる燗○ |
| 相性料理 | ほうとう鍋、川魚の塩焼き、山梨県産桃のカプレーゼ |
| どこで買える・飲める | 井出醸造店(酒望子)、河口湖周辺の酒販店・飲食店 |
2. 高砂 山廃純米辛口|富士高砂酒造
浅間大社門前で 190 年以上続く蔵が守る山廃仕込の中軸銘柄。富士山伏流水の超軟水が醸すやわらかい口当たりと、山廃由来のどっしりしたコク、キレのよい辛口が特長です。常温〜ぬる燗で旨味が立ち上がり、富士宮やきそばのソースや豚味噌漬けと好相性。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 種別 | 山廃純米 |
| 味わい | 穏やかな香り、厚みのある旨味、キレ良い辛口 |
| 飲み方 | 常温◎/ぬる燗◎ |
| 相性料理 | 富士宮やきそば、豚味噌漬け焼き、燻製ナッツ |
| どこで買える・飲める | 富士高砂酒造 直営店、浅間大社周辺飲食店 |
3. 富士錦 特別純米酒 誉富士|富士錦酒造
静岡県オリジナル酒米〈誉富士〉を精米歩合 60 %で磨き、静岡酵母で醸した特別純米酒。リンゴやメロンの香り、透明感のある甘み、後口のキレが調和し、和洋どちらの料理にも合わせやすい一本です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 種別 | 特別純米 |
| 味わい | フルーティーな吟醸香、軽やかな甘旨、爽快な余韻 |
| 飲み方 | 冷酒◎ |
| 相性料理 | 富士宮やきそば、カマンベールチーズ、シーフードサラダ |
| どこで買える・飲める | 富士錦酒造直売所、富士宮市内の酒販店 |
4. 富士山 純米吟醸|牧野酒造
富士宮市下条の牧野酒造(1743年創業)が富士山の伏流水(湧水)で仕込む代表銘柄。すっきりした甘みと穏やかな香りで、冷酒でも燗でも楽しめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 種別 | 純米吟醸 |
| 味わい | ほんのり華やかな香り、やわらかな甘味、きれいな酸 |
| 飲み方 | 冷酒◎/ぬる燗○ |
| 相性料理 | ざるそば、虹鱒のムニエル、湯葉刺し |
| どこで買える・飲める | 牧野酒造(直売・オンラインショップ)、富士宮市内の酒販店 |
富士山と酒蔵を巡る「モデルコース」
富士宮市には江戸時代創業の蔵が集まり、河口湖や朝霧高原まで足を延ばせばさらに別の蔵も訪ねられます。富士山信仰の史跡、景色、酒蔵見学、利き酒を組み合わせた3コースを紹介します。車で回る場合、運転する人は試飲できません。運転しない同行者がいるときに試飲を楽しむか、公共交通機関を使いましょう。
①|富士宮の酒蔵を巡る、定番コース
🕒 所要時間: 約5〜6 時間|🧭 難易度: ★☆☆|🍶 試飲数の目安: 2〜3ヵ所
富士宮の酒蔵を初めて訪ねる人向け。朝に浅間大社を参拝し、門前の富士高砂酒造から富士錦酒造、牧野酒造へと回ります。富士錦酒造と牧野酒造は土日・祝日に休業する日があるため、事前に営業日を確認してください。
| 時間帯 | 行程 | 内容 |
|---|---|---|
| 9:00〜10:00 | 富士山本宮浅間大社 | 楼門・湧玉池を拝観。朝は比較的すいています。 |
| 10:10〜11:20 | 富士高砂酒造 | 10:30 の回で蔵見学(要予約)。山廃純米辛口ほかを試飲。(所要45 分) |
| 11:30〜12:20 | ランチ(門前町) | 富士宮やきそば・ニジマス塩焼きなど郷土グルメ。 |
| 12:35〜13:45 | 富士錦酒造 | 車またはバスで上柚野へ(約30 分)。蔵見学(11〜4月・5名以上・要予約)+直売所で買い物。 |
| 14:10〜15:00 | 白糸の滝 & 牧野酒造 | 滝散策 → 牧野酒造で〈富士山〉などを購入(試飲の可否は事前に確認)。 |
| 15:30〜 | お土産購入・富士宮駅へ | 地酒などのお土産を買い、JR 富士宮駅から帰路。 |
②|河口湖と朝霧高原、富士宮をつなぐ酒蔵めぐりコース
🕒 所要時間: 約7〜8 時間|🧭 難易度: ★★☆|🍶 試飲数の目安: 3ヵ所

三つの地域の蔵を一日で回りたい方向け。午前は河口湖で景色と蔵見学、午後は朝霧高原の富士正酒造で蔵見学、夕方に富士宮の蔵に立ち寄ります。車での移動が前提なので、試飲は運転しない同行者に任せましょう。
| 時間帯 | 行程 | 内容 |
|---|---|---|
| 8:00〜9:30 | 河口湖畔散策 | 大石公園など湖畔から富士山を眺める。 |
| 9:30〜10:45 | 井出醸造店 蔵見学 | 9:30 の回に参加(要予約・有料)。〈甲斐の開運〉などを試飲(運転者は不可)。 |
| 11:00〜12:00 | ドライブで朝霧高原へ | 車で約40 分。移動途中に道の駅朝霧高原で軽食。 |
| 12:00〜14:30 | 富士正酒造 蔵見学&試飲 | 無料の蔵見学(要予約・約30分)→ 売店で買い物。 |
| 14:30〜15:00 | 休憩 | あさぎりフードパーク内でひと休み。 |
| 15:40〜16:20 | 富士高砂酒造 蔵ショップ | 車で富士宮市街へ(約40分)。蔵の販売店で買い物。 |
| 16:30〜17:15 | 浅間大社 & 帰路 | 夕方の浅間大社を参拝し、JR 富士宮駅へ。 |
③|河口湖と富士山駅で利き酒、ライトプラン
🕒 所要時間: 約4〜5 時間|🧭 難易度: ★☆☆|🍶 試飲数の目安: 1 蔵+テイスティングバー
蔵をいくつも回るのは大変だけれど、いろいろな銘柄を試したい方向け。河口湖周辺を観光したあと、富士山駅のテイスティングバーで山梨の地酒を飲み比べます。
| 時間帯 | 行程 | 内容 |
|---|---|---|
| 12:00〜13:00 | ランチ(河口湖駅周辺) | ほうとう鍋、富士桜ポーク丼など。 |
| 13:10〜14:00 | 井出醸造店 直売所 | 店内の有料試飲(5コイン935円)と買い物。 |
| 14:10〜15:10 | 湖畔散策 & 富士山パノラマロープウェイ | 河口湖畔を散策し、ロープウェイで富士山と河口湖を眺める。 |
| 15:30〜16:45 | フジ酒場 – FUJI SAKE BAR –(富士山駅ビルQ-STA地下1階) | 富士急行線で富士山駅へ移動。コイン式サーバーで山梨の日本酒24種をテイスティング |
| 16:45〜 | 高速バス・富士急行線で帰路 | 富士山駅から新宿・東京方面へ。 |
まとめ
富士山麓では、浅間大社や河口湖の景色を楽しみながら、同じ富士山の水で仕込まれた酒を蔵ごとに飲み比べられます。見学の条件や蔵開きの日程は年によって変わるため、出かける前に各蔵の公式サイトで確認してください。
冷やした吟醸も、燗にした山廃も、季節を変えて味わってみてください。




