はじめに
根津神社は、東京都文京区根津にある東京十社のひとつです。社伝では約1,900年前に日本武尊が創祀したとされ、現在の社殿は五代将軍・徳川綱吉の命で宝永3年(1706年)に完成しました。このとき建てられた本殿・幣殿・拝殿・唐門・西門・透塀・楼門の7棟が欠けずに残り、すべて国の重要文化財に指定されています。
4月の「文京つつじまつり」では、約100種3,000株のツツジが咲くつつじ苑と、乙女稲荷へ続く朱色の千本鳥居が見られます。この記事では、根津神社の歴史、境内の見どころ、周辺スポットとアクセスを順に紹介します。

根津神社の概要
正式名称は「根津神社」ですが、神仏習合の時代には「根津権現」と呼ばれていました。主祭神は須佐之男命・大山咋命・誉田別命の三柱で、相殿に大国主命と菅原道真公を祀ります。厄除け・縁結び・商売繁盛などのご利益があるとされています。東京十社には、ほかに神田神社や日枝神社などがあります。
| 正式名称 | 根津神社 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都文京区根津1-28-9 |
| 主祭神 | 建速須佐之男命・大山咋命・誉田別命 |
| 社格 | 旧府社・東京十社 |
| 創建 | 景行天皇の時代(約1,900年前) |
| 参拝時間 | 唐門の開門5:00〜6:00・閉門17:00〜18:00(月により異なる、2026年9月時点) |
| 拝観料 | 境内無料(つつじまつり期間中のつつじ苑入苑寄進金:500円〜1,000円・日程により変動、12歳以下無料) |
| 定休日 | 年中無休 |
| 電話番号 | 03-3822-0753 |
※最新の参拝時間・料金は根津神社公式サイトをご確認ください。
最寄りは東京メトロ千代田線の根津駅・千駄木駅、南北線の東大前駅で、いずれも徒歩約5分です。境内は約7,000坪(公式サイトによる)で、鎮守の杜に囲まれた中に楼門・唐門・拝殿・本殿・透塀が近い距離にまとまっています。

根津神社の歴史
第1期 — 創建の背景(景行天皇〜奈良時代)
社伝によれば、第12代景行天皇の御代、日本武尊が東征の途上で武神・須佐之男命の神徳を仰ぎ、千駄木の地に社を創祀したのが始まりです。当時の社の規模や正確な位置、古代の信仰の様子を伝える史料はほとんど残っていません。
第2期 — 中世の隆盛(平安〜室町時代)
中世の根津神社について確かな記録は多くありませんが、文明年間(1469〜1487年)には太田道灌が社殿を奉建したと伝えられています。神仏習合の時代には、素盞烏尊を本地・十一面観音として祀り、相殿の山王大権現・八幡大菩薩とあわせて「根津三社大権現」と呼ばれていました。
第3期 — 江戸時代初期と徳川将軍家との縁(17世紀)
転機は江戸時代に訪れます。現在の境内地は、三代将軍家光の三男で綱吉の兄にあたる甲府藩主・徳川綱重の屋敷があった場所で、のちに六代将軍となる綱豊(家宣)の生誕の地でもありました。
宝永元年(1704年)、綱吉は甥の綱豊を養嗣子(世継ぎ)に定めると、家宣の産土神である根津権現社にこの屋敷地を献納し、「天下普請」と呼ばれる大造営を行いました。宝永3年(1706年)に現在の社殿が完成して千駄木の旧社地から遷宮が行われ、永代社領500石も寄せられています。社殿は本殿・幣殿・拝殿を一続きにした権現造りで、唐門・西門・透塀・楼門とあわせた7棟が今も揃っています。
第4期 — 江戸中期の祭礼と庶民の信仰(18〜19世紀)
六代将軍家宣は根津権現の祭礼を9月21日と定め、正徳4年(1714年)には江戸の全町から山車を出させて、山王祭・神田祭と並ぶ「天下祭」として盛大に執り行いました。このとき家宣が奉納した神輿3基は現存し、文京区指定有形文化財になっています(通常非公開、4年に一度の神幸祭で一基ずつ公開)。
門前には花街が栄え、明治期には「根津遊郭」が置かれました(1888年に洲崎へ移転)。明治維新後は神仏分離令により社名を根津権現社から根津神社に改め、明治天皇の東幸にあたって准勅祭社に定められています。仏教的な要素を除く施策も行われましたが、由緒ある社殿であるため建物はそのまま残されました。社殿の各所に見られる卍の紋は、その名残です。

第5期 — 近現代:文豪と過ごした根津、そして現代へ
明治以降、周辺には文学者が多く住みました。夏目漱石は明治36年(1903年)から約4年間、近くの千駄木に住み、この家で『吾輩は猫である』を執筆しました。『三四郎』(1908年)には近くの団子坂も登場します。森鴎外も千駄木に居を構えています。公式サイトによれば、漱石と鴎外はともに根津神社の氏子で、境内には二人が散歩の途中で腰を下ろしたと伝わる「文豪の石」があります。
昭和20年(1945年)の戦災で社殿の一部が損害を受けましたが、復旧工事が昭和34年(1959年)に竣工し、昭和37年(1962年)には唐門・透塀・楼門の修繕も完了しました。
見どころ・おすすめスポット
1. 唐門・楼門——江戸の社殿建築を伝える2つの門
参道を進んで最初にくぐるのが朱塗りの楼門です。公式サイトによれば、江戸の神社の楼門で現存する唯一のもので、左右に安置された随身像のうち、向かって右側は水戸黄門(徳川光圀)がモデルと言われています。
楼門の先にある唐門は、両側の妻に唐破風を持つ「平唐門」という形式です。かつては天井に墨絵の龍が描かれていたと伝わりますが、現存していません。楼門・唐門を含む7棟はいずれも本物の漆塗りです。
2. 本殿・拝殿——権現造りの社殿と透塀
唐門の奥に建つのが拝殿・幣殿・本殿です。手前の拝殿、一段高い奥の本殿、その間をつなぐ幣殿の3つが一続きになった形式を権現造りと呼び、日光東照宮などと同じ江戸時代の神社建築の様式です。
社殿を囲む透塀は、細い木を菱形に組んだ窓から中が透けて見えることが名の由来です。全長約200mの塀が300年を経ても歪まず、調査で地中8mの深さまで基礎が施されていることがわかったといいます。西門は2本脚の「棟門」という形式で、構造上の強度が低く現存例が少ない門です。つつじまつりの期間中は、社殿内の三十六歌仙絵(森村宜永筆)も1日2回、有料で拝観できます。
3. つつじ苑——約100種3,000株のツツジ
境内西側の斜面に広がるつつじ苑は、綱重の屋敷だった頃に館林からキリシマツツジを移植したことに始まり、江戸時代には「つつじヶ岡」と呼ばれる名所でした。現在のツツジは戦後の社殿修復のあとに3,000株を増植したもので、昭和45年から「文京つつじまつり」が開かれています。2026年の会期は4月1日〜30日で、約100種のツツジが時期をずらして咲くため、期間中長く楽しめます。
つつじ苑に入れるのはつつじまつりの期間中のみで、入苑寄進金500円〜1,000円(日程により変動、12歳以下無料、2026年時点)が必要です。休日は混雑しやすいため、平日のほうが歩きやすいでしょう。見頃は年によって前後するので、文京区観光協会や根津神社のSNSで開花状況を確認してから出かけると安心です。苑内の小高い場所からは、下からは見えない角度で楼門を眺められます。
4. 千本鳥居(乙女稲荷・駒込稲荷)——朱色の鳥居と2つの境内社
乙女稲荷神社へ続く参道には、奉納された朱色の鳥居が斜面に沿って連なり、「千本鳥居」と呼ばれています。実際の数は千本には届きません。
乙女稲荷神社は、池を見下ろす舞台造りの社で、祠は穿たれた穴の中にあり、古い記録には「穴稲荷」とも記されています。近くには家宣の胞衣(胎盤)を納めた「徳川家宣胞衣塚」も残ります。もう一つの駒込稲荷神社は、根津神社が遷座する前、この地が綱重の屋敷だった頃の守り神で、屋根には葵の御紋が残っています。
5. 社叢(しゃそう)と境内の自然——鎮守の杜と境内の石碑
境内は鎮守の杜に囲まれ、神使の白蛇が住むと伝わる「願掛け榧(カヤ)の木」もあります。鴎外が日露戦争の戦勝記念に奉納した砲弾の台座を転用した「森鴎外碑銘水」、道路拡幅の際に移された庚申塔や塞大神碑など、石碑類も点在しています。また、鴎外が「舞姫」を執筆した旧居を移築した「舞姫の家」は、土日祝日のみ拝観料300円で見学できます。
周辺の観光スポット
谷中・千駄木エリア——「谷根千」の下町散歩
根津神社は、谷中・根津・千駄木を合わせた「谷根千(やねせん)」エリアにあります。神社から北へ歩くと谷中銀座商店街があり、コロッケや焼き鳥などの食べ歩きができる店が並びます。
その先の谷中霊園には、渋沢栄一・徳川慶喜・横山大観など著名人の墓があり、桜の名所としても知られています。アメ横のような大型の商業地とは違い、住宅街の中に寺や小さな店が点在する落ち着いた街並みです。
上野エリア——博物館・美術館が集まる上野公園
根津神社から南東へ徒歩約15分の上野公園には、東京国立博物館・国立西洋美術館(世界遺産)・国立科学博物館・東京都美術館・上野動物園などが集まっています。不忍池では夏に蓮が咲き、弁天堂とともに見られます。アメ横商店街も上野から徒歩圏内です。
湯島天満宮(湯島天神)——学問の神様と梅の名所
根津神社から南へ徒歩約15分、東京メトロ千代田線の湯島駅からは徒歩約2分の湯島天満宮は、学問の神様・菅原道真を祀る神社で、受験シーズンには合格祈願の参拝者で混み合います。江戸時代から梅の名所として知られ、例年2〜3月に「梅まつり」が開かれます。2〜3月の湯島天神の梅と4月の根津神社のツツジを組み合わせれば、文京区で季節の花めぐりができます。靖国神社も同じ都心エリアにあり、東京の神社巡りの行程に組み込めます。
アクセス方法
東京メトロ千代田線「根津駅」より:1番出口から徒歩約5分。
東京メトロ南北線・東大前駅より:徒歩約5分。
東京メトロ千代田線「千駄木駅」より:徒歩約5分。谷中・千駄木エリアの散策と組み合わせる場合に便利です。
都営三田線「白山駅」より:徒歩約10分。
JR「上野駅」「日暮里駅」より:上野駅から徒歩約20分、上野公園を抜けて谷中霊園経由なら約25分。日暮里駅からは谷中銀座を経由して徒歩約20分です。
車でのアクセス:公式サイトによれば、北参道側に有料駐車場があり、境内には参拝者用の無料駐車場もあります(つつじまつり期間中は境内に駐車できません)。つつじまつりの期間中は周辺道路が混雑するため、公共交通機関の利用が無難です。
授与所(御朱印)の受付は9:30から16:30〜17:30まで(月により異なる、日曜・祝日は9:00から)です(2026年9月時点)。最新情報は公式サイトで確認してください。
まとめ
根津神社では、宝永3年(1706年)完成の重要文化財7棟が揃って残る社殿と、4月のつつじ苑・千本鳥居を一度に見られます。谷中・千駄木の散策や上野の美術館と組み合わせれば、半日から1日の行程が組めます。



