はじめに
東京タワーの足元、芝公園の一角にある増上寺は、徳川将軍家の菩提寺です。朱塗りの三解脱門越しに東京タワーが見える眺めで知られています。
浄土宗の七大本山の一つで、徳川15代将軍のうち6人が眠ります。江戸時代の境内は約25万坪におよび、現在の芝公園のほぼ全域が旧境内地にあたります。明治以降に縮小した現在の境内は約1万6千坪で、年間の参拝者は約100万人です(増上寺公式サイトより)。

増上寺の概要
正式名称は「三縁山広度院増上寺(さんえんざんこうどいんぞうじょうじ)」。大殿(本堂)の本尊は阿弥陀如来です。徳川家康が念持仏とした秘仏「黒本尊」は別棟の安国殿に祀られ、年3回だけ開帳されます。
| 正式名称 | 三縁山広度院増上寺 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都港区芝公園4-7-35 |
| 宗派 | 浄土宗(七大本山) |
| 本尊 | 阿弥陀如来(大殿)/秘仏・黒本尊は安国殿 |
| 創建 | 明徳4年(1393年) |
| 開基 | 酉誉聖聰(ゆうよしょうそう)上人 |
| 参拝時間 | 境内自由(本堂6:00〜17:30、安国殿9:00〜17:00) |
| 拝観料 | 境内無料(徳川将軍家墓所は大人500円) |
| 定休日 | 年中無休(徳川将軍家墓所は火曜定休、祝日は公開) |
| 電話番号 | 03-3432-1431 |
※最新の参拝時間・料金は増上寺公式サイトでご確認ください。
徳川家康は江戸に入った天正18年(1590年)に増上寺を徳川家の菩提寺とし、慶長3年(1598年)に寺は現在の芝へ移りました。最盛期の境内には坊中寺院48、学寮百数十軒が並び、「寺格百万石」とうたわれました。
増上寺の歴史
第1期:室町時代(1393年)——創建と浄土宗の根本道場として
創建は明徳4年(1393年)。浄土宗第八祖の酉誉聖聰上人が、武蔵国豊島郷貝塚(現在の千代田区平河町から麹町にかけて)に開いたと伝えられます。室町から戦国時代にかけて、増上寺は東国における浄土宗の拠点として発展しました。
浄土宗は法然上人が開いた宗派で、「南無阿弥陀仏」と念仏を称えれば誰もが極楽浄土に往生できると説きます。
第2期:江戸初期(1598年〜)——徳川家康との出会いと大発展
天正18年(1590年)、江戸に入った徳川家康は第12世住職・源誉存応(げんよぞんのう)上人と師檀関係を結び、増上寺を徳川家の菩提寺に定めました。
慶長3年(1598年)、増上寺は現在の芝に移転します。江戸城の裏鬼門(南西)にあたり、鬼門(北東)を守る寛永寺と対をなす位置とされます。慶長10年(1605年)には大造営が始まり、三解脱門・経蔵・大殿の建立や、家康による宋版・元版・高麗版の三大蔵経の寄進が続きました。家康は元和2年(1616年)、増上寺で葬儀を行うよう遺言して没しています。
江戸時代の増上寺には浄土宗の宗務を統べる総録所が置かれ、僧侶の学問所「関東十八檀林」の筆頭として、常時3,000人の修行僧がいたといわれます。寺領は1万石余りでした。
第3期:幕末〜明治(1868年〜)——廃仏毀釈と境内の縮小
明治元年(1868年)の神仏分離令と、それに続く廃仏毀釈の中で、徳川家の庇護を失った増上寺は境内地を召し上げられ、一時は新政府の命で神官の養成機関まで置かれました。
明治6年(1873年)には境内の大部分が芝公園となり、同じ年に大殿が放火で焼失。明治42年(1909年)にも大殿を再び焼失しました。
一方で明治8年(1875年)には大本山に列せられ、伊藤博文らを新たな檀越に迎えて復興が進み、大正10年(1921年)に大殿が再建されました。

第4期:大正〜昭和(1923年〜1945年)——関東大震災と戦災からの試練
大正12年(1923年)の関東大震災では、江戸城の大手門を移したと伝わる旧大門に倒壊の恐れが生じ、両国の回向院へ移築されました。現在の大門は昭和12年(1937年)にコンクリートで造り直されたものです。
明治・大正期の復興を一瞬で無にしたのが、昭和20年(1945年)の空襲です。伽藍と将軍家の御霊屋のほとんどが焼失し、国宝に指定されていた二代秀忠の霊廟(台徳院殿霊廟)も失われました。回向院に移された旧大門も、この空襲で焼けています。
昭和33年(1958年)には隣接地に東京タワーが完成し、三解脱門や大殿の背後にタワーがそびえる現在の景観が生まれました。
第5期:昭和後期〜現代——大殿の再建と現在の境内
戦後は昭和27年(1952年)に仮本堂を設け、昭和46年(1971年)から4年、35億円をかけて現在の大殿を建立し、昭和49年(1974年)に完成しました。鉄筋コンクリート造ながら伝統的な寺院建築の様式を取り入れています。
その後も開山堂(1989年)、光摂殿(2000年)、圓光大師堂(2009年)が建ち、平成22年(2010年)には安国殿が新たに建て替えられました。
除夜の鐘、初詣、4月の御忌大会などの年中行事は今も続いています。
見どころ・おすすめスポット
1. 三解脱門(三門)——戦災を免れた国の重要文化財
三解脱門は元和8年(1622年)に再建された三戸二階二重門で、国の重要文化財です。間口約19.5m、高さ約21m。戦災を免れ、江戸初期の姿を今に伝えています。なお、2025年から2032年(予定)まで保存修理工事中で、門は工事用の覆屋(素屋根)に覆われます。
名称は、むさぼり(貪)・いかり(瞋)・おろかさ(癡)という三つの煩悩から解脱する門という意味です。二階内部(非公開)には釈迦三尊像と十六羅漢像が安置されていますが、現在は修理のため楼上から下ろされています。
門の正面から、背後の東京タワーを重ねて撮る構図が定番です。大門から三門までは約108間(約195m)、三門から大殿までは約48間(約86m)で、それぞれ108の煩悩と阿弥陀仏の48の願にちなむとされます。

2. 安国殿(黒本尊)——秘仏・黒本尊阿弥陀如来
安国殿には、徳川家康が陣中にも携えて戦勝を祈ったと伝わる阿弥陀如来像「黒本尊(くろほんぞん)」が祀られています。恵心僧都源信の作とも伝えられ、黒い姿は長年の香煙によるとも、人々の災難を身代わりに受けたためともいわれます。
家康の没後に増上寺へ奉納され、江戸時代から勝運・災難除けの仏として信仰を集めてきました。
秘仏のため、開帳は毎年1月・5月・9月の15日(正五九)の10:00〜16:00のみです。当日は14時から勝運黒本尊祈願会が営まれます。御朱印や御守りの授与も安国殿で、9:00〜17:00です。
3. 徳川将軍家墓所——6人の将軍が眠る静謐な霊域
境内南側の徳川将軍家墓所には、二代秀忠・六代家宣・七代家継・九代家重・十二代家慶・十四代家茂の6人の将軍のほか、家茂の正室・和宮(静寛院)ら正室・側室や子女を含む計38人が埋葬されています。入口の門は、もと六代家宣の墓前にあった鋳抜きの中門です。拝観冥加料は大人500円(高校生以下無料、宝物展示室とのセット券1,000円)で、拝観受付時間は平日11:00〜15:00、土日祝10:00〜16:00、火曜定休(祝日は公開)です(2026年9月時点)。2026年10月27日〜12月1日はチケット販売所の工事のため休所の予定です。
現在の墓所は戦後に整えられたもので、昭和33年(1958年)に発掘・調査された遺体は荼毘に付され、ここに改葬されました。大殿地下の宝物展示室では、戦災で焼失した秀忠の霊廟を明治末期に再現した「台徳院殿霊廟模型」を見られます。英国王室のコレクションとして保管され、平成26年(2014年)に日本へ戻ったものです。
台徳院殿霊廟は日光東照宮のプロトタイプになった霊廟とされ、日光の徳川家康の霊廟とあわせて訪ねると、その系譜をたどれます。
4. 大殿(本堂)——鉄筋コンクリートで蘇った近代の本堂
現在の大殿(本堂)は昭和49年(1974年)完成の鉄筋コンクリート造で、本尊・阿弥陀如来を祀ります。屋根瓦は奈良県から運んだ約10万枚、大殿を支える柱は阿弥陀仏の48の願にちなむ48本です。本堂内にはエレベーターがあり、車いすの貸し出しも受け付けています。
大殿では毎朝6:00に朝勤行が行われ、毎週日曜9:00からは誰でも参加できる1時間の説教があります。毎年4月2日〜7日には宗祖法然上人の忌日法要「御忌(ぎょき)大会」が営まれます。
5. 鐘楼と大梵鐘——東京の空に響く除夜の鐘
大梵鐘は延宝元年(1673年)、あまりの大きさに7回の鋳造を経て完成した鐘で、高さ約3.3m、重さ約15トン。東日本最大級とされ、「江戸三大名鐘」の一つに数えられます。「江戸七分ほどは聞こえる芝の鐘」と川柳にも詠まれました。
大晦日の深夜0時には除夜の鐘が撞かれます(撞鐘への一般参加の可否は公式サイトで確認してください)。
ふだんも朝と夕方の2回撞かれています。
周辺の観光スポット
1. 東京タワー——増上寺のすぐそばにそびえる昭和のシンボル
徒歩約5分の東京タワーは、昭和33年(1958年)完成、高さ333mの電波塔です。
メインデッキ(高さ150m)とトップデッキ(高さ250m)からは、増上寺の境内も見下ろせます。
2. 芝公園——増上寺を囲む都心のオアシス
増上寺を囲む芝公園は、明治6年(1873年)に指定された日本で最初期の公園の一つで、もとは増上寺の境内地です。
春は桜の名所になります。境内とあわせて歩くと、かつての境内の広さが実感できます。
3. 虎ノ門・新橋エリア——グルメと文化を楽しむ都会の散歩道
北東へ徒歩15〜20分で、再開発が進む虎ノ門ヒルズや新橋に出ます。新橋駅SL広場の周辺は居酒屋やラーメン店が集まるエリアです。
さらに北の日比谷公園や皇居まで、芝公園から緑地をつないで歩くこともできます。皇居の外周はランニングコースとしても知られています。

アクセス方法
電車でのアクセス
都営三田線「芝公園駅」(A4出口)または「御成門駅」から徒歩約3分、都営浅草線・大江戸線「大門駅」(A6出口)から徒歩約5分、都営大江戸線「赤羽橋駅」から徒歩約7分、JR・東京モノレール「浜松町駅」から徒歩約10分です。
バスでのアクセス
都営バスを利用する場合、「大門駅前」バス停などが利用できます。
車でのアクセス・駐車場
首都高速道路「芝公園出口」または「一ノ橋出口」から約5分です。一般車両用の駐車場はないため、周辺のコインパーキングを利用するか、公共交通機関で訪れてください。
観光モデルコースとしての位置づけ
東京タワーや皇居と組み合わせやすく、午前に芝公園・増上寺・東京タワーを回り、午後は浅草寺や明治神宮へ向かう一日コースも組めます。
まとめ
境内の見どころは三解脱門、安国殿の黒本尊、徳川将軍家墓所、大殿と宝物展示室です。黒本尊を拝むなら1・5・9月の15日、墓所に入るなら火曜以外(祝日は公開)を選んでください。



