🕓 2025/5/2
#日本酒
自然で心を潤し、地酒で舌鼓を打つ富士山旅
目次
はじめに
雲上にそびえる富士山は、古来「信仰の山」であると同時に、雪解けの伏流水が里へ注ぐ「恵みの山」でもあります。澄みきった軟水は蔵人たちの手で仕込み水となり、富士宮の門前町や河口湖畔、朝霧高原の酒蔵で“やわ旨”の一献に姿を変えました。本記事では、浅間大社の朱楼門や逆さ富士の絶景をめぐりながら、名水仕込みの日本酒を味わい尽くす旅をご案内します。
歴史探訪・醸造体験・利き酒バー――旅のスタイルに合わせたモデルコースとともに、霊峰が育んだ五つの銘酒、蔵開き情報まで網羅しました。さあ、富士山の懐でしか味わえない“水と酒の物語”へ出発しましょう。
1. 富士山でつくる日本酒とは
霊峰・富士山を遥拝する日本の象徴。
世界文化遺産に登録された富士山は、古来より信仰の対象であり、芸術や文学の源泉として人々を魅了してきました。山麓に点在する浅間神社や白糸の滝などの名勝は、富士山信仰と大自然が織り成す荘厳な景観を今に伝えています。こうした神聖な山の恵み――豊かな伏流水と冷涼な気候――こそが、富士山麓の日本酒文化を育む原動力でもあります。
・霊峰への信仰と、清らかな仕込み水の邂逅
富士山本宮浅間大社をはじめとする浅間神社では、噴火を鎮め山霊を祀る信仰が千年以上続いております。その参道を流れる湧玉池の伏流水は、富士宮市内の蔵元が仕込み水として用いるほど清冽です。山梨県側の富士五湖でも、地下深くを通って磨かれた軟水が湧き出し、井出醸造店(創業1864年)などがその恩恵を受けております。
富士錦酒造・富士高砂酒造・牧野酒造・富士正酒造といった蔵元もまた、富士山の水で仕込みを行い、軟水ならではのやわらかい口当たりの酒を守り続けています。
・雄大な山容と、蔵の白壁が響き合う門前風景
浅間大社の朱塗り楼門越しに望む富士山、あるいは河口湖畔に映る逆さ富士を堪能した後に、白壁土蔵造りの酒蔵を訪れますと、自然の雄大さと手仕事の繊細さが対比を成し、富士山麓ならではの風情を味わえます。各蔵では事前予約制の見学や無料試飲を実施しており、冬場には低温発酵中のタンクを間近で見学し、しぼりたての雫を味わえるのが醍醐味です。
・軟水仕込みが生む“やわ旨”の地酒
富士山の伏流水は硬度が低い軟水で、発酵がゆっくり進むため、きめ細かな旨味とすっきりとしたキレを兼ね備えた酒質をもたらします。井出醸造店の純米吟醸「甲斐の開運」は透き通るような喉越しと爽やかな酸が調和し、富士高砂酒造の山廃純米辛口はまろやかな甘旨に芯のある辛口が光ります。
静岡県産酒米〈誉富士〉100%の「富士錦 純米吟醸」は果実香とキレの良さが引き立ち、朝霧高原で醸す富士正酒造の「富士正 純米吟醸」は高原の澄んだ空気を思わせるクリアな味わいが魅力です。
【 富士山エリア 概要情報 】
項目 | 内容 |
---|---|
所在地 | 山梨県富士河口湖町・富士吉田市/静岡県富士宮市・御殿場市 ほか |
アクセス | 東海道新幹線 新富士駅→富士宮へ路線バス30分/JR身延線 富士宮駅(蔵元徒歩圏内)/富士急行線 河口湖駅(河口湖蔵まで車5分)/ |
主な観光地 | 富士山本宮浅間大社、白糸の滝、富士五湖、富士スバルライン五合目、朝霧高原 |
日本酒スポット | 富士宮四蔵(富士高砂・富士錦・牧野・富士正)、井出醸造店(河口湖)、あさぎりフードパーク |
イベント情報 | 1月「井出醸造店 新春蔵開き」/3月上旬「富士錦酒造 蔵開き」/3月中旬「富士高砂酒造 蔵開放」/11月「地酒フェス in 富士山」 |
2. 富士山周辺の「おすすめ酒蔵」
“霊峰の名水”と“蔵元の技”を一度に味わう
富士山本宮浅間大社や河口湖から 車で 20〜30 分圏内 に、仕込み水の名所として知られる酒蔵や体験施設が点在しています。雄大な山並みと対照的に、蔵の白壁からは素朴で温かな手仕事の息づかいが感じられるはず。ここでは富士山観光と組み合わせて立ち寄りやすい 酒蔵3軒 を厳選してご紹介します。
1. 井出醸造店|富士五湖唯一の「甲斐の開運」蔵
富士山北麓・河口湖畔で 1864 年に創業。蔵の地下 50 m から汲み上げる 富士山伏流水(軟水・硬度 40 mg/L) を仕込み水に、看板銘柄〈甲斐の開運〉を醸しています。仕込み量は年間 500 石弱と小規模ながら、吟醸主体の丁寧な酒造りが評判。
蔵見学は 1 日 2 回(9:30/15:00)・所要約 60 分・800 円(試飲付き)。麹室や歴史的な貯蔵蔵をめぐった後、純米吟醸や季節限定の生原酒など 3〜5 種をテイスティング。英語パンフレットを用意しており、外国人観光客にも人気です。河口湖駅から徒歩 20 分、周辺観光と合わせてどうぞ。
項目 | 内容 |
---|---|
正式名称 | 株式会社 井出醸造店 |
創業年 | 1864 年(元治元年) |
主な銘柄 | 甲斐の開運(純米吟醸・大吟醸 ほか) |
見学 | 〇(要予約・有料) |
試飲 | 〇(約 3〜5 種) |
直売所 | あり(限定酒・酒粕スイーツ) |
アクセス | 富士急行線 河口湖駅 徒歩 20 分/車 5 分 |
2. 富士高砂酒造|浅間大社門前で守る「山廃仕込」の老舗
天保 2 年(1831)創業。富士山本宮浅間大社から徒歩 5 分という門前立地で、境内湧水と同じ 湧玉池伏流水(超軟水・硬度 20 mg/L) を仕込みに使用。伝統の 山廃仕込 を守り抜きながら、県開発酵母で華やかな吟醸香を引き出しています。
見学ツアーは 10:30〜15:30 の間随時・約 45 分・無料(要予約)。文化財級の土蔵で麹蓋や木桶を間近に見学し、ショップ「蔵倉」で〈高砂 山廃純米辛口〉ほか数種を無料試飲。英語表記の案内板も整備されています。浅間大社参拝とセットで訪ねやすい蔵です。
項目 | 内容 |
---|---|
正式名称 | 富士高砂酒造 株式会社 |
創業年 | 1831 年(天保 2 年) |
主な銘柄 | 高砂 山廃純米辛口/高砂 大吟醸 |
見学 | 〇(要予約・無料) |
試飲 | 〇(蔵ショップにて) |
直売所 | あり(限定生原酒・酒粕アイス) |
アクセス | JR 富士宮駅 徒歩 15 分 |
3. 富士正酒造|朝霧高原で楽しむ“見て・食べて・造る”体験蔵
出展:https://www.shizuoka-sake.jp/
慶応 2 年(1866)創業。2012 年に酒蔵ごと **朝霧高原(標高 900 m)**へ移転し、あさぎりフードパーク内で最新設備とガラス張りの見学通路を整備しました。高原の澄んだ空気と富士山伏流水で醸す〈富士正 純米吟醸 誉富士〉は、静岡酵母由来のフルーティーな香りとキレが特徴。
施設内では仕込み槽を**自由見学(予約不要・無料)**でき、新酒試飲や酒ソフトクリーム、甘酒ラテなど日本酒スイーツも充実。週末限定で 酒粕スイーツ教室やミニ醸造体験が開催されるほか、敷地内のBBQエリアでは日本酒×朝霧ヨーグル豚のペアリングも楽しめます。
項目 | 内容 |
---|---|
正式名称 | 富士正酒造 株式会社 |
創業年 | 1866 年(慶応 2 年) |
主な銘柄 | 富士正 純米吟醸 誉富士/朝霧 富士正 |
見学 | 〇(自由見学・予約不要) |
試飲 | 〇(有料/無料) |
直売所 | あり(限定酒・酒ソフトなど) |
アクセス | JR 富士宮駅→路線バス 40 分「フードパーク前」下車 |
3. 富士山周辺の「日本酒おすすめセレクション」
霊峰・富士山の伏流水が育む富士麓の地酒は、旨みとキレを両立した“やわ旨タイプ”。
門前町・富士宮の老舗蔵に加え、河口湖や朝霧高原の個性派蔵も台頭し、日本酒ファンの注目度が年々高まっています。ここでは 富士山観光とセットで味わいたい銘柄を5本 厳選し、味わい・飲み方・ペアリングをまとめました。
1. 甲斐の開運(かいのかいうん)純米吟醸|井出醸造店
富士五湖唯一の蔵が「オール山梨」を掲げて醸す看板酒。富士山伏流水(硬度約 40 mg/L)と県産〈五百万石〉を 55 %まで磨き、低温長期発酵で仕上げています。白桃を思わせる穏やかな吟醸香、澄んだ甘旨、シャープな酸が重なり合い、冷酒では瑞々しく、ぬる燗では米のふくらみが増す二面性が魅力。河口湖畔の旅館や土産店で広く扱われています。
項目 | 内容 |
---|---|
種別 | 純米吟醸 |
味わい | マスカット様の香り、爽快な酸、軽快な後味 |
飲み方 | 冷酒◎/ぬる燗○ |
相性料理 | ほうとう鍋、富士川のアユ塩焼き、山梨県産桃のカプレーゼ |
どこで買える・飲める | 井出醸造店直売所、河口湖・西湖周辺旅館、富士山駅前酒店 |
2. 高砂 山廃純米辛口|富士高砂酒造
浅間大社門前で 190 年続く蔵が守る山廃仕込の中軸銘柄。湧玉池の超軟水(硬度約 20 mg/L)が醸すやわらかい口当たりと、山廃由来のどっしりしたコク、そして切れ味の良い辛口が絶妙なバランスを奏でます。常温〜ぬる燗で旨味が立ち上がり、富士宮やきそばのソースや豚味噌漬けと好相性。
項目 | 内容 |
---|---|
種別 | 山廃純米 |
味わい | 穏やかな香り、厚みのある旨味、キレ良い辛口 |
飲み方 | 常温◎/ぬる燗◎ |
相性料理 | 富士宮やきそば、豚味噌漬け焼き、燻製ナッツ |
どこで買える・飲める | 富士高砂酒造 蔵ショップ「蔵倉」、浅間大社周辺飲食店 |
3. 富士錦 純米吟醸 誉富士|富士錦酒造
静岡県オリジナル酒米〈誉富士〉を 55 %まで磨き、静岡酵母で醸したフレッシュ&フルーティーな純米吟醸。リンゴやメロンの香り、透明感のある甘み、後口のキレが調和し、和洋どちらの食卓にも寄り添います。春の蔵開き限定・しぼりたて生は毎年即完の人気。
項目 | 内容 |
---|---|
種別 | 純米吟醸 |
味わい | フルーティーな吟醸香、軽やかな甘旨、爽快な余韻 |
飲み方 | 冷酒◎ |
相性料理 | 富士宮やきそば、カマンベールチーズ、シーフードサラダ |
どこで買える・飲める | 富士錦酒造直売所、道の駅朝霧高原、蔵開きイベント限定生原酒 |
4. 富士山 純米吟醸|牧野酒造
白糸の滝の湧水〈芝川伏流水〉で仕込む、「富士山」の商標を持つ唯一の日本酒。超軟水仕込みで雑味が少なく、白い花を思わせる香りとすっきりした甘旨が特長。冷酒でフレッシュ、45 ℃前後の燗で旨味がふくらみます。
項目 | 内容 |
---|---|
種別 | 純米吟醸 |
味わい | ほんのり華やかな香り、やわらかな甘味、きれいな酸 |
飲み方 | 冷酒◎/ぬる燗○ |
相性料理 | 白糸の滝そば、虹鱒ムニエル、湯葉刺し |
どこで買える・飲める | 牧野酒造直売店、白糸の滝売店、富士宮駅前酒店 |
5. 富士正 朝霧ミニ仕込み体験酒|富士正酒造
朝霧高原の蔵が週末限定で開催する ミニ醸造体験 で造る“世界に一本だけの純米酒”。杜氏レクチャー後、留仕込みを体験し、自ら攪拌した醪を約 2 か月後に 720 ml 瓶で受け取ります(体験料 9,900 円/1 本・オリジナルラベル付き)。仕込み設計次第で甘口〜辛口まで自由自在。完成酒は道の駅朝霧高原やオンラインには流通せず、体験参加者のみ入手可能です。
項目 | 内容 |
---|---|
種別 | 体験醸造・純米酒 |
味わい | 設計次第(華やか~淡麗) |
飲み方 | 好みで設定 |
相性料理 | 体験者のオリジナル提案 |
どこで買える・飲める | 富士正酒造(あさぎりフードパーク)体験参加者限定 |
4. 富士山と酒蔵を巡る「モデルコース」
霊峰・富士山の伏流水と高原の冷涼気候が育む地酒。門前町・富士宮には江戸‐明治創業の老舗蔵が並び、河口湖や朝霧高原まで足を延ばせば“自分で造る日本酒”体験もできます。富士山信仰の史跡とあわせ――絶景鑑賞、酒蔵見学、利き酒まで。旅のスタイルに合わせて選べる3コースをご提案します。
①|富士宮門前の定番を巡る、王道酒蔵探訪コース
🕒 所要時間: 約5〜6 時間|🧭 難易度: ★☆☆|🍶 試飲数の目安: 2〜3ヵ所
出展:https://shizuoka.hellonavi.jp/
“まずは富士宮の代表蔵を知りたい”人向け。浅間大社を朝イチで参拝し、門前で 2 大老舗蔵を効率よく回ります。無料試飲で“富士山のやわ旨”を飲み比べましょう。
時間帯 | 行程 | 内容 |
---|---|---|
9:00〜10:00 | 富士山本宮浅間大社 | 朱楼門・湧玉池を拝観。朝は渋滞・混雑が少なく快適。 |
10:10〜11:20 | 富士高砂酒造 | 10:30 の回で蔵見学(要予約)。山廃純米辛口ほかを試飲。(所要45 分) |
11:30〜12:20 | ランチ(門前町) | 富士宮やきそば・ニジマス塩焼きなど郷土グルメ。 |
12:35〜13:45 | 富士錦酒造 | 車またはバスで上柚野へ(約30 分)。蔵見学+試飲ほか。 |
14:10〜15:00 | 白糸の滝 & 牧野酒造 | 滝散策 → 牧野酒造直売店で〈富士山 純米吟醸〉を試飲・土産購入。 |
15:00〜 | お土産購入・富士宮駅へ | 地酒羊羹や酒粕アイスを買い、JR 富士宮駅から帰路。 |
②|見て・触れて・味わう!体験重視の酒蔵&醸造ワークショップコース
🕒 所要時間: 約7〜8 時間|🧭 難易度: ★★☆|🍶 試飲数の目安: 3ヵ所+体験酒
歴史・体験・テイスティングを全部欲張りたい方向け。午前は河口湖で絶景と蔵見学、午後は朝霧高原の富士正酒造で“世界に1本だけのマイ日本酒”を仕込み、夕方に富士宮蔵を追加。
時間帯 | 行程 | 内容 |
---|---|---|
8:00〜9:30 | 河口湖畔散策 | 大石公園で逆さ富士撮影、富士山パノラマロープウェイなど。 |
9:30〜10:45 | 井出醸造店 蔵見学 | 9:30 の回に参加(要予約・有料)。〈甲斐の開運〉を試飲。 |
11:00〜12:00 | ドライブで朝霧高原へ | 車で約40 分。移動途中に道の駅朝霧高原で軽食。 |
12:00〜14:30 | 富士正酒造 ミニ醸造体験 | 座学 → 洗米・櫂入れ。体験料9,900円・720 ml 1本後日配送。 |
14:30〜15:15 | 高原ランチ | フードパーク内でチーズフォンデュ&ノンアル甘酒。 |
15:15〜16:00 | 富士高砂酒造 蔵ショップ | 富士宮市街に戻り、限定生原酒や酒粕アイスを試飲・購入。 |
16:15〜17:00 | 浅間大社夕景 & 帰路 | 朱楼門越しの夕焼け富士を撮影、JR 富士宮駅へ。 |
③|河口湖で利き酒!テイスティングライトプラン
🕒 所要時間: 約4〜5 時間|🧭 難易度: ★☆☆|🍶 試飲数の目安: 1 蔵+テイスティングバー
出展:https://fujisakaba.foodre.jp/
「蔵巡りはハードだけど多彩な銘柄を試したい」方向け。午後は河口湖周辺で観光し、テイスティングバーで山梨・静岡両県の地酒を一気に味わいます。
時間帯 | 行程 | 内容 |
---|---|---|
12:00〜13:00 | ランチ(河口湖駅周辺) | ほうとう鍋、富士桜ポーク丼など。 |
13:10〜14:00 | 井出醸造店 直売所 | 蔵ショップで3種試飲(無料/有料)。 |
14:15〜15:30 | フジ酒場 – FUJI SAKE BAR – |
コイン式サーバーで山梨の日本酒24種をテイスティング(3–4杯セット 1,100円〜) |
15:30〜16:30 | 湖畔散策 & カチカチ山ロープウェイ | 富士山絶景を背景に散策。 |
16:30〜 | 高速バス・富士急行線で帰路 | 河口湖駅発→新宿・東京方面へ。 |
さいごに
湧玉池のせせらぎ、朝霧高原の澄んだ風、そして蔵で聞いた醪(もろみ)の息づかい――富士山麓の酒旅は、景色や味わいだけでなく、人と水が織りなす時間そのものを記憶に刻みます。一滴一滴に宿るのは、霊峰への畏敬と、蔵人たちの矜持。グラスを傾けるたびに、あの山容が目に浮かび、再訪の計画を立てずにはいられないはずです。どうか次の季節も、富士山の恵みに会いに来てください。
冷えた吟醸も、燗でふくらむ山廃も、変わらぬ名水とともに、あなたを温かく迎えてくれるでしょう。