🕓 2025/5/31
#日本酒
歴史薫る城下で心を潤し、加賀の地酒に舌鼓を打つ金沢旅
目次
はじめに
金沢――加賀百万石の歴史が息づくこの城下町には、白壁に映える格子戸の茶屋街、金箔がきらめく工芸、そして全国に名を馳せる個性派の地酒が折り重なり、ほかにはない豊饒な文化層を築いています。
歴史とモダンが交差する町並みを歩きながら、杯の中に宿る百万石の美意識を堪能する――その第一歩となるガイドとしてお役立てください。
1. 金沢で味わう日本酒とは
加賀百万石の城下町として栄えた金沢は、江戸期の面影が残る武家屋敷や茶屋街と、県内34蔵が醸す個性豊かな地酒が共鳴する“日本酒のまち”。医王山系の花崗岩層を百年かけてくぐる超軟水 ― “百年水” ― は透明感のある酒質を育み、湿潤な冬の気候は低温長期発酵に最適です。兼六園の四季や金箔文化とともに味わう一杯は、旅情をいっそう深めてくれます。
1 | 兼六園の四季と、百年水が育む加賀の酒
金沢中心部からバス10分。福光屋(創業1625)は石川県最古の酒蔵で、地下150 mから汲み上げる“百年水”と契約栽培米で全量純米造りを貫きます。蔵内ガイドツアーは、映像上映→仕込み水試飲→蔵見学→利き酒という構成で、プレミアム酒「加賀鳶 いかづち」などをテイスティング。長い回廊に並ぶ杉玉や最新のサーマルタンクが、400年の歴史と革新を同時に体感させてくれます。
2 | ひがし茶屋街を歩き、角打ちで味わう地酒の鼓動
出格子が連なるひがし茶屋街には、築百年超の町家を改装した角打ち ひがしやま酒楽 があり、県内蔵の限定酒をぐい吞み一杯から提供。試飲L.O.16:50なので日中の散策途中に立ち寄るのがおすすめです。夜は尾山神社そばの 日本酒バル 金澤酒趣 へ。北陸酒80種を飲み比べ3種セット(¥1,000前後)で味わえ、能登野菜や治部煮など加賀料理とのペアリングも秀逸。旅の始まりと終わりには、金沢駅「あんと」内の 金沢地酒蔵 で自販機試飲とボトル購入を。
3 | 百万石の美意識を映す杯、加賀鳶の多彩な表情
福光屋の看板ブランド 「加賀鳶」 は、藩政期に火消しを担った「加賀鳶」にちなんだ粋な辛口路線。純米大吟醸「吉祥」、千日低温熟成の「千日囲い」、山廃仕込み原酒「いかづち」など多彩なレンジを擁し、冷酒でシャープに、燗で旨味を膨らませる懐の深さが魅力です。季節限定の“春しぼり”や“ひやおろし”は、兼六園の桜や紅葉とシンクロするようにリリースされ、城下町の景観を杯に映します。
【 金沢城・ひがし茶屋街エリア ― 概要情報 】
項目 | 内容 |
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所在地 | 石川県金沢市(兼六園・金沢城公園・ひがし茶屋街周辺) |
アクセス | 金沢駅 → 北鉄バス「兼六園下・金沢城」約10 分/駅からタクシー約10 分〈福光屋〉 |
主な観光地 | 兼六園、金沢城公園、ひがし茶屋街、近江町市場、長町武家屋敷跡、21世紀美術館 |
日本酒スポット | 福光屋〈蔵見学・唎き酒〉、金沢地酒蔵(駅ナカ角打ち)、日本酒バル 金澤酒趣、ひがしやま酒楽(角打ち)、SAKE SHOP 福光屋 金沢店 |
イベント情報 | 兼六園ライトアップ・夜間無料開園(GW期間/金沢百万石まつり(6月第1週・百万石行列)/福光屋 蔵内見学(通年・要予約) |
2. 金沢周辺の「おすすめ酒蔵」
武家町の面影と“百年水”が醸す――百万石文化を味わう蔵巡り
長町武家屋敷跡やひがし茶屋街の格子戸が今も残る金沢は、霊峰白山に端を発する伏流水と湿潤な冬の寒気に恵まれた酒どころ。藩政期の文化財と現代の醸造技術が重なり合うこの城下町では、見学と利き酒で“加賀流の酒造り”を体感できます。ここでは金沢中心部から日帰りで訪ねやすい2蔵を厳選してご紹介します。
1. 株式会社 福光屋|寛永創業・全量純米の老舗蔵
出展:https://www.fukumitsuya.co.jp
地下150 mから汲み上げる「百年水」と契約栽培米だけで全量純米造りを行う石川県最古の蔵(1625年創業)。映像鑑賞から蔵内見学、プレミアム唎き酒まで選べるツアーは所要45〜90分。看板銘柄**「加賀鳶」**は粋な辛口、ほか「福正宗」や長期熟成の「黒帯」なども利き比べ可能です。文化財級の梁が並ぶ仕込み蔵と最新のサーマルタンクが同居し、400年の革新を肌で感じられます。
項目 | 内容 |
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正式名称 | 株式会社 福光屋 |
創業年 | 1625 年(寛永2) |
主な銘柄 | 加賀鳶・福正宗・黒帯・百年水仕込みリキュール |
見学 | ○ 要予約 ・唎き酒ベーシック 45 分 ¥1,100 ・プレミアム 45 分 ¥3,300(7 月〜) ・蔵内コース 90 分 ¥3,300 |
試飲 | ○ 有料 3〜5種(ツアー内) |
直売所 | SAKE SHOP 福光屋(金沢店・ひがし茶屋街店) |
アクセス | 金沢駅 → 北鉄バス「小立野」下車徒歩1 分/タクシー約15 分 |
2. やちや酒造株式会社|前田家御用達・文化財の町家蔵
出展:https://www.yachiya-sake.co.jp
1583年に加賀藩祖・前田利家の酒御用を賜り、1628年に酒銘「加賀鶴」を拝受した城下最古級の蔵。北国街道沿いの母屋と仕込み蔵は登録有形文化財で、梁や柱に当時の手斧削りが残ります。40分の蔵見学(要予約・¥500)は1日3回、試飲コーナーで**「加賀鶴 純米 石川門」**などを利き比べ。見学券は直売所の購入割引券としても使えるため、お土産選びにも便利です。
項目 | 内容 |
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正式名称 | やちや酒造株式会社(銘柄:加賀鶴) |
創業年 | 1628 年(寛永5) |
主な銘柄 | 加賀鶴 純米・大吟醸・石川門シリーズ |
見学 | ○ 要予約・1日3回(10:30/13:30/15:00) 所要約40 分・見学料 ¥500 |
試飲 | ○ 見学料に含む/追加有料テイスティング可 |
直売所 | 地酒 谷内屋(蔵併設ショップ) |
アクセス | 金沢駅 → JR・北鉄バス「鳴和」下車徒歩5 分/タクシー約10 分 |
3. 金沢周辺の「日本酒おすすめセレクション」
格子戸と石畳が連なるひがし茶屋街、長町武家屋敷跡の土塀――百万石の雅が今も息づく金沢では、霊峰白山の雪解けが 100 年 をかけて磨く超軟水“百年水”が酒造りを支えています。
蔵見学や駅ナカ専門店で手に入る 5本 を厳選し、味わい・造り・楽しみ方をまとめました。兼六園散策や茶屋街めぐりとペアでどうぞ。
1. 加賀鳶 純米大吟醸46 百万石乃白|福光屋(金沢市)
「百万石乃白」誕生を祝う数量限定キュヴェ。名の“シロ”にちなみ精米歩合46 %まで磨いた石川県オリジナル酒米を、蔵地下150 mに湧く超軟水“百年水”と金沢酵母で長期低温発酵させています。
白桃や洋ナシの瑞々しいアロマに続いて、柔らかな米旨とミネラル感、そして加賀鳶らしい切れ味がシャープに収束。後口にほのかな苦みが残り、甘エビやガスエビなど甘味のある北陸の魚介を一段引き立てます。澄んだ輪郭は10 ℃前後の冷酒で最良、雪見庭園や桜夜景に映える“白”のイメージも秀逸です。
項目 | 内容 |
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種別 | 純米大吟醸(精米歩合46 %) |
味わい | 洋ナシ・白桃の香り/すっきり辛口・余韻キレ良し |
飲み方 | 冷酒◎/常温○ |
相性料理 | ガスエビ塩焼き、治部煮、香箱ガニ |
どこで買える・飲める | SAKE SHOP 福光屋(蔵・茶屋街)、金沢地酒蔵(駅あんと) |
2. 加賀鶴 純米酒「石川門」|やちや酒造(金沢市)
加賀藩前田家御用達の歴史を持つ町家蔵が、石川県育成酒米「石川門」の個性を余すことなく表現。自家井戸の軟水と金沢酵母で仕込んだ酒は、米由来のうま味を芯に据えながら日本酒度+5の辛口設計で後キレ良好。口に含むと穏やかな米香とともにふくらみ、その後伸びのある酸が味わいをまとめ、のどぐろや鴨の治部煮といった旨脂のある料理でも余計な重さを感じさせません。
2024年Kura Masterではプラチナ賞を獲得し、クラシックとモダンが同居する金沢酒の代表格として再評価が進んでいます。
項目 | 内容 |
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種別 | 純米(精米歩合65 %) |
味わい | 旨味ふくらみ/キレの良い辛口 |
飲み方 | 常温◎/ぬる燗◎/冷酒○ |
相性料理 | のどぐろ塩焼き、鴨の治部煮、焼き椎茸 |
どこで買える・飲める | やちや酒造 直売所、金沢地酒蔵、ひがし茶屋街 |
3. 天狗舞 山廃仕込純米酒|車多酒造(白山市)
“山廃=濃厚”というイメージを決定づけたパイオニア的存在。全量自家精米60 %、山廃酒母を自然乳酸発酵で育み、冬期でも湧き上がる発酵熱をコントロールせず力強い酸を引き出します。黄金がかった山吹色の液面からはカカオや熟れたバナナの香り、口中では旨味と骨太の酸が渾然一体となり、ぬる燗でさらに深みが開花。IWC2011純米酒部門トロフィー受賞、2024年Kura Master山廃部門トップ審査員賞と、国内外で評価が続く“食中熟成酒”のスタンダードです。
能登牛のすき焼きや濃口の甘エビ塩辛で合わせると余韻が長く楽しめます。
項目 | 内容 |
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種別 | 山廃純米(精米歩合60 %) |
味わい | 熟成バナナ様の香り/旨酸豊か・余韻長い |
飲み方 | 常温◎/ぬる燗◎ |
相性料理 | 能登牛すき焼き、甘エビ塩辛、白山舞茸天ぷら |
どこで買える・飲める | 金沢地酒蔵、近江町市場の角打ち、県内居酒屋多数 |
4. 手取川 純米吟醸 本流辛口|吉田酒造店(白山市)
霊峰白山の伏流水(硬度高め)と自社培養の金沢酵母に、麹米=山田錦・掛米=五百万石を使用し、伝統の「もち米四段仕込み」で醸す万能食中吟醸。青リンゴを思わせる爽快な香り、瑞々しい旨味、そしてもち米由来の奥行きが辛口フィニッシュを支え、刺身から肉料理まで守備範囲が広いのが特徴です。
14 ℃前後の軽い冷酒なら香りが立ち、40 ℃のぬる燗では丸みが増して加賀おでんとの相性が抜群。150年続く蔵の味わいを現代的に再定義した「本流」シリーズの中核を担う一本です。
項目 | 内容 |
---|---|
種別 | 純米吟醸(精米歩合50–55 %) |
味わい | 青リンゴ系吟醸香/シャープな辛口 |
飲み方 | 冷酒◎/常温○ |
相性料理 | ブリ刺し、金沢おでん(車麩・梅貝)、加賀れんこんはす蒸し |
どこで買える・飲める | 金沢地酒蔵、近江町市場「旬彩酒房」、白山市蔵ショップ |
5. 竹葉 能登純米|数馬酒造(能登町)
“オール能登”を掲げ、契約栽培の能登産山田錦と海岸段丘の地下水を用い、能登杜氏の手仕事で仕込むフラッグシップ。穏やかな米香の奥に柑橘系の酸が見え隠れし、口当たりは軽快ながら旨味・渋味・苦味がほどよく重なり合うバランス型。
IWC2014銀賞や2023ワイングラスでおいしい日本酒アワード金賞など受賞歴多数で、冷酒ではシャープ、ぬる燗では米のコクが際立ちます。能登牡蠣やいしる鍋との相性は鉄板で、食卓を選ばない“能登の恵み”を体現する一本としてまず勧めたい酒です。
項目 | 内容 |
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種別 | 純米(精米歩合55 %) |
味わい | 柑橘を思わせる酸/旨みとキレのバランス |
飲み方 | 冷酒◎/ぬる燗◎ |
相性料理 | 能登牡蠣フライ、いしる鍋、ふぐ卵巣糠漬け |
どこで買える・飲める | 金沢駅あんと「能登うまいもん館」、茶屋街バー、ネット通販 |
4. 金沢と酒蔵を巡る「モデルコース」
格子戸が続く茶屋街を歩き、“百年水”で醸す加賀の地酒を利き酒する――。歴史情緒と日本酒文化が共存する金沢は、半日でも丸一日でも“濃い”体験が組めるのが魅力です。旅のスタイルに合わせて選べる 3つのモデルコース をご提案します。
①|兼六園と利き酒を満喫! 定番さんぽ&試飲コース
🕒 所要時間: 約 4 – 5 時間 | 🧭 難易度: ★☆☆ | 🍶 試飲数目安: 2ヵ所
出展:https://www.fukumitsuya.co.jp
金沢駅を起点に、世界遺産級の庭園美と駅ナカ・老舗蔵のテイスティングをコンパクトに体験。午前中に兼六園の四季を堪能し、近江町市場で海鮮ランチを挟んで、福光屋で“百年水”由来の純米酒を利き酒する王道半日コース。
時間帯 | 立ち寄りスポット & 体験 |
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9:30 | 金沢駅 金沢地酒蔵 で 0 次会試飲 |
10:00 | バスで 兼六園 & 金沢城公園 散策 |
11:30 | 近江町市場 海鮮丼ランチ |
12:45 | 福光屋 SAKE SHOP 金沢店〈唎き酒ツアー〉 |
14:00 | バスで金沢駅へ/ひがし茶屋街に延伸も可 |
②|金沢+白山三蔵を深掘り! 天狗舞 & 手取川満喫コース
🕒 所要時間: 約 7 – 8 時間 | 🧭 難易度: ★★☆ | 🍶 試飲数目安: 2蔵+駅ナカ
JRとタクシーを組み合わせ、金沢郊外に集中する実力蔵を一気に巡る欲張りプラン。山廃の雄〈車多酒造・天狗舞〉と透明感の〈吉田酒造店・手取川〉で対照的な味わいを比較し、白山比咩神社で“酒の神”に参拝。帰路は駅ナカでお土産探しも。
時間帯 | 立ち寄りスポット & 体験 |
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9:00 | JR金沢駅 → 車多酒造(天狗舞) 試飲 |
10:45 | 吉田酒造店(手取川) 見学 & 試飲 |
12:30 | 道の駅 めぐみ白山(地元ランチ) |
13:30 | 白山比咩神社 参拝 |
15:30 | 金沢駅 金沢地酒蔵 で飲み比べ & お土産 |
③|駅ナカで“ちょい飲み”! 利き酒ライトプラン
🕒 所要時間: 約 2 – 3 時間 | 🧭 難易度: ★☆☆ | 🍶 試飲数目安: 2ヵ所+フードペアリング
乗り換え待ちや新幹線前にサクッと地酒体験。駅ナカで3種試飲→金沢おでんや鮮魚の立ち食いでペアリング―短時間でも“地酒の街”を実感できるスナックコース。
時間帯 | 立ち寄りスポット & 体験 |
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任意 | 金沢駅 金沢地酒蔵 3杯セット試飲 |
+30分 | 百番街あんと 金沢おでんスタンド |
+60分 | 鼓門 撮影 & 土産物色→列車へ |
さいごに
金沢の地酒は、白山の伏流水“百年水”と石川ならではの酒米が織りなす唯一無二の芳醇さに、400年を超える蔵元の矜持と革新が重なり合って生まれます。兼六園の借景、茶屋街の夕灯り、長町武家屋敷跡の静寂――そのすべてが盃の向こう側に宿り、飲むたびに“百万石の時間”を体験できるのが、この町の日本酒旅の醍醐味です。
今回ご紹介した酒蔵・銘柄・モデルコースは、初めての方でもリピーターでも「時間・距離・味わい」のバランスを取りながら深掘りできる内容に絞りました。まずは半日コースで街と酒の輪郭を掴み、次回は郊外の蔵巡りや季節限定酒を狙って――と、何度でも組み直せるのも金沢の懐の深さ。旅の最後はぜひ金沢駅「金沢地酒蔵」でお好みの一本を手に入れ、帰路でもその余韻を味わってください。
歴史と自然が磨いた透明感、職人の情熱が生む奥行き、それらを包み込む城下町の美意識。五感すべてで金沢の日本酒文化を堪能し、新しい「お気に入りの一杯」と出会える旅になりますように。